がまの油の口上 (1)

御用とお急ぎでない人はゆっくりと見ておいで。見るは後楽見らるるは因果、物聞かざればその理方がわからない。酒屋の前に三年三月立っていたって飲まない酒に酔わぬが道理だお立会い。山寺の鐘は同時一任したり、鐘に撞木を当てるといえども鐘が鳴るか撞木がなるかと問うとその辺がわからない、だがお立会い。手前がこれへもちい出しましたるこのナツメの中には唐児ゼンマイの人形が入っている。人形の作人はあまた在ると言えども手前がこれへもちい出しましたるは名工武田のつぼね細工、ノンドには8枚の白合、下方には12枚のこがずを掛けこのナツメに入れておくときには天の光と地の湿りを受けぬよう合体をする。パッと蓋を取る。ツカツカっと進むはトラの小走りトラ走り、スズメのコマドリこま返し、くじゃく霊鳥の舞、だがお立会い。お立会いにこのなつめを見せようってわけじゃない、まずこのガマだ。このガマは色面総和四六のガマという。四六、五六はどこでわかる、前足の指が四本後足が六本これを名づけて色面総和四六のガマ。そんなガマが家の庭を跳んでいたとか、そういうのは薬引き効用の足しにならない、このガマはこれよりはるか東にあたる筑波山のふもとにオンバコという露草を食らって育っている。これを捕らえてきて四方に鏡を立て下に金網を張り、この中にガマを追い込む時は、ガマは己の姿が四方の鏡に写るだろう。己の姿に己が驚き身体より脂汗を掻く。これを下の金網にて抜き取り柳の小枝をもって三七21日の間トーロリトロリと煮詰める。紅いが辰砂、矢頭の油テレメンテーカマンテーカ。効能はというと、しぶにしびれか赤切れがんがさようばいそう、まだある。はしいじぼじだっこう、紙はいけないわた広げて痛いところに貼る。痛みが即座に消える。まだある。刃物の切れ味をとめる。さあ、手前がこれへもちい出しましたるは関の孫六三本杉、それほどの名刀ではないが凡刀でもない。さあ、抜けば珠散る氷の刃。光ってばかりで切れないと思うから切れ味を試してみよう。まず紙を切ろう。一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十と六枚、十と六枚が三十と二枚、ふっ!嵐山は落花の容。こんなに切れる刃物でもがまの油を一付け付ける。さあ、これで切れ味はピッタリと止まる。うそじゃあない。さあやってみよう、たたいて切れない押して切れない引いて切れない。大道商人の面の皮は厚いと思われるから腕をやってみよう。同じことだ。たたいて切れない押して切れない引いて切れない。今度はこいつをふき取る。ふき取っておいてこれで面をやりゃ面が真っ二つ。芯が利口だからそんな馬鹿な真似はしない。まず腕をやる。いいかい、ね、さあ。触るか触らない内に血はジンジとほとばしる。慌てちゃいけない。まず血が出たらこいつを良くふき取る。ふき取っておいてガマの油を豆ならほんの一粒付ける。さあこれで血はピッタリと止まる。どうだいこれほど霊験あらたかなる薬ってのはちょいとないよ。これが世に言うぶんちゅうこうわガマの油。宿元で商うときには十と二文だが、今日は出張ってたったの十文。世の中にこれほどの安い買い物は無い。これを買っておけば腐る物でなし。さぁ買っておいで。
[PR]
by stance-00 | 2005-10-17 12:38 | つれづれ


<< がまの油の口上 (2) 出張から帰ってきました >>